生成AIブームの裏で、半導体装置メーカーは何を見ているのか?
2025年7月17日、半導体装置メーカーの雄、株式会社ディスコが2026年3月期 第1四半期の決算短信を発表しました。売上は前年同期比で+8.6%と堅調ながら、営業利益や純利益の伸びは控えめ。生成AIへの需要が拡大する中、マーケットの期待と企業実態にはギャップがあるようにも感じられます。
この記事では、その決算短信を読み解きながら、生成AIトレンドに乗る企業の「光と影」を探っていきます。
売上高は過去最高—その裏にある需要構造とは?
売上高は899億円(+8.6%)と過去最高を記録。その主因は、生成AI向けのIC関連装置の出荷増加です。特にアジア地域、なかでも中国(構成比30%)・台湾(27%)が牽引しました。
パワー半導体分野が減少した一方、精密加工ツールは設備稼働率の高さから底堅く推移。需要の“質”が変わってきている印象です。
利益は伸び悩み—研究開発と為替の壁
営業利益は345億円(+3.3%)、純利益は238億円(+0.2%)と、売上に比べると物足りない数字。要因は主に以下の2点:
- 研究開発費の増加(技術革新への投資)
- 為替の影響(ドル高・円安の想定レートが逆風)
高機能化に伴い、開発投資は避けられない道。しかし、それが短期的には利益圧迫要因となる点は、投資家目線では要警戒です。
地域構成比の偏り—中国・台湾依存のリスクとは?
ディスコの売上構成はアジア75%と極めて偏っています。米中対立や台湾情勢の緊張が高まる中、この地域依存は将来の懸念材料となりえます。
特に米国の一律関税(ユニバーサルタリフ)構想が実現すれば、北米向け装置価格上昇による投資判断の後ろ倒しも懸念されます。
第2四半期見通しと減配予測—冷静な視線が必要
会社予想によると、2Q累計では売上こそ前年並みですが、営業利益▲10.9%、純利益▲11.5%と減益見通し。これに伴い、中間配当も前年の124円から110円へと減配する見込みです。
ディスコ株は“買い”か?—財務健全性と市場評価
指標 | 現状 | コメント |
---|---|---|
株価 | 約35,000円 | 決算後に急伸、年初来高値圏 |
PER | 約30倍 | 製造業平均の約2倍、割高感あり |
配当利回り | 約1.2% | 増配傾向だが利回りは控えめ |
自己資本比率 | 78% | 財務健全性は極めて高い |
投資家の間では「押し目待ち(30,000円前後)」という声も多く、短期的な調整局面が狙い目との見方もあります。一方で、生成AI・EV向けの装置需要が底堅く、長期的には成長期待が強いです。
利益率の変化—高水準を維持しつつも微減の兆し
営業利益率は38.3%(前年同期比▲1.1pt)と依然高水準ながら、わずかに低下。原価率の上昇(約2pt)や為替差損(▲10億円)が影響しています。
特に高付加価値製品(レーザソーやDGP)の構成比増加が収益性を押し上げる一方、減価償却費などでコストもかさんでいます。
研究開発費の増加—未来への投資か、利益圧迫か?
今期の研究開発費は約300億円(前年比+16%)と過去最高水準。羽田R&Dセンターの新棟建設(2025年着工予定)など、中長期の技術革新に向けた布石が打たれています。
ただし、利益率とのトレードオフが生じており、短期的には利益圧迫要因となっています。
成長の陰にこそ、投資家の目が光る
ディスコの決算短信は、単なる好業績の報告ではなく、利益率の変化や地域依存のリスク、未来への投資とのバランスを読み解くことで、より深い理解が得られます。
このあたりに着目することで、ディスコだけでなく生成AI関連銘柄全体の投資判断にも役立つ視点が得られるはずです。
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